tsujimotterの下書きノート

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「R[X]/〈X^2+1〉が C に同型」が味わえるようになってきました

昨日仙台のノラヤさんというコワーキングスペースで講師をして参りました。
こちらについてはまた本編のブログで紹介するとして。

準備の中で、作図の理論、具体的には「円分方程式」の勉強していました。

こういうときってテンションが上がっているので、ものすごく勉強が捗るのですよね。


その話を勉強しているときに、ふと昔からもやもやしていた疑問が晴れたような気がするのです。

詳しくは本編のブログでまとめようかと思っていますが、以下触りだけ。


気になっていたのは以下の式。

 \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle \simeq \mathbb{C}

 \mathbb{R}[X] は実係数多項式環、 \langle x^2+1\rangle は二次多項式  x^2+1 で生成される  \mathbb{R}[X] のイデアルです。これが、複素数体  \mathbb{C} に同型というもの。


なんとなく意味はわからないでもないけど、考えれば考えるほど意味が分からない、だったのです。


まず、簡単なところからいきましょう。

 x^2 + 1 \mathbb{R} 上既約な多項式なので、 \langle x^2+1\rangle \mathbb{R}[X] の素イデアルです。環を素イデアルで割ってるので、その商は体になります。なので、 \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle は何らかの体になっているはずです。(正確には、この議論は不十分で、本当は「環を素イデアルで割った商は整域」です。商が体になるのは、割るイデアルが極大イデアルの場合です。今回の場合、 \mathbb{R}[X] はユークリッド環なので、 \mathbb{R}[X] はPID (単項イデアル整域) であり、結果的に素イデアルは極大イデアルに一致します。)

問題は、その体が、なぜ複素数体と  \mathbb{C} と同型だといえるのか。

 A B が同型であることを示すためには、準同型写像があって、それが全単射であることが確認できれば良いですね。


ところで、剰余類環  \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle の元を具体的に記述してみましょうか。

 \mathbb{R}[X] をイデアル  \langle x^2 + 1 \rangle でつぶして同値類にまとめるということですから、次のようになるでしょう。

 \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle = \{a +bx + \langle x^2+1\rangle \mid a, b\in \mathbb{R} \}


いわゆる「割り算原理」ってやつですね。任意の多項式を2次以上の多項式で割ってあげると、その余りは1次以下になるという。

ここで、

 a + bx + \langle x^2+1\rangle \mapsto a+bi

のような対応を考えると、複素数と対応できることは一目瞭然ですね。


実際、

 \phi \colon \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle \to \mathbb{R}(i)

という準同型写像を考えて、 g \in \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle に対して

 \begin{align*}
\phi \colon  g  \mapsto g(i)
\end{align*}

となるように対応させればいいですね。この準同型写像は、もちろん全単射です。

ここで  i は、 i^2 + 1 = 0 を満たす代数的数です。実際、これが虚数単位になるわけですが。 \mathbb{R} i を添加した体は、もちろん複素数体そのものですね。

これにて見事、複素数体  \mathbb{C} と同型であることが示されました。


今回紹介した複素数の定義は、コーシーが提案したものですが、  \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle の面白いところは、「虚数」という存在するかどうか分からないものをいっさい仮定せずに、多項式環とそのイデアルだけを使って構成してしまうという点ですね。

そう考えると、何とも味わい深いような感じがしてきます。


苦いビールが飲めるようになると「あー大人になったな」と実感するものですが、まさにそんな感じです。

あぁ、おれも

 \mathbb{R}[X] \big/ \langle x^2+1\rangle \simeq \mathbb{C}
みたいな難しい数式が味わえるようになったのかぁ。


って違うか。笑


と、偉そうなことを言いつつ、果たして自分が正しく理解しているか、まだいまいち自信が持てません。誤った議論を含んでいる可能性がありますので、内容を参考にする方はおきをつけて。。。


該当する内容は、以下の本の第三章に丁寧にまとまっていますので、気になる方はぜひご一読ください。

ガロワ理論〈上〉

ガロワ理論〈上〉