前回、ネイピア数 の話をしたので、今度は の話をしよう。
の定義はこうだった。
で、ここにひとつマイナスをつけると が現れる。
一瞬「えっ?」って思うかもしれない。マイナスを付けただけで、逆数になってしまうのだから、ちょっと不思議な感じがする。
が、少し計算してみるとたしかに になることがわかる。式 (2) の左辺を変形していこう。
最後に式 (1) を代入すると、
となる。たしかに一致した。
この という数だが、いろんなところで登場する数らしい。
たとえば、こんな確率の話がある。
から までの数字が書かれたカードの組が2つあって、一方の組を A さんが、もう1方の組を B さんが持っているとする。二人がそれぞれ から までのカードに対して、適当に順番を決めて、一斉に並べたとしよう。このとき、同じ順番に同じ数字のカードが1組も並ばない確率を考える。これを とする。
この の極限が に一致するのだ。本当にそうなるのか確認してみよう。
まず、 のカードが同じ順位に並ぶ確率は だ。並ばない確率は だ。
同様に、 のカードが同じ順位に並ぶ確率も だ。並ばない確率も同様に である。
このように繰り返していくと、 はこれらの 個の確率の積にほかならないから、
であることが分かる。
ここで、今得られた式 (3) の形は、式 (2) にそっくりである。 の極限をとれば完全に一致するだろう。
したがって、同じ数字のカードが1組も並ばない確率は、カードの枚数 が大きくなればなるほど に近づいていくのだ。
「そんな特殊なカードゲームの話をして何になるんだ」と思うかもしれない。実はまったく現実離れした話というわけでもないらしい。
たとえば、今挙げた から までのカードを、 個に分類した「人の趣向」を表すと考えてみよう。たとえば、 は「買い物が好き」とか、 は「食べるのが好き」とか、 は「部屋はきれいな方が落ちつく」とかだ。
こうした趣向に対して、A さん B さんのそれぞれの好みに合わせて順位付けをしてもらう。ちなみに、私は より の方が順位が高い。
もし、同じ順位に同じ趣向が1つでもあれば、その二人は少なくとも1つは同じ感性を持っているといえる。逆に、同じ順位にある趣向が1つもなければ、まったく異なる感性を持っているといえる。端的に言うと相性が悪いのだ。
つまり先ほどの、何の役に立つか分からないと思われたカードゲームは、人の好みのマッチング問題と見ることもできるわけだ。ここまでの話では、人の趣向の種類を 個と仮定しているが、実際は有限個とは限らないから、無限通りの趣向に対するマッチングを考えることになるだろう。したがって、2人の感性が全く合わない確率は、 に限りなく近づく。
はおよそ 程度だから、出会った人の は、まったく感性が合わないということになる。逆に考えれば、 の人はなんらかの点において、同じ感性を持っているということだから、高望みしなければ誰かしら相手は見つかるだろう。
このような例は、実はいくつも考えることが出来て、その度に が登場するのだという。なかなか面白いだろう。
一つ注意しておきたいが、私は「 という数は、森羅万象を表す神秘的な数なんだ」などというデタラメを言うつもりは全くない。こういう式に登場するのは「たまたま」だと私は思う。あえて言うなら、 の定義式がシンプルできれいなので、いろんなケースに当てはめやすいということなのだろう。
むしろ、非常に入り組んだややこしい式が、たまたまこういう確率をうまく表していたりしたら、それは神秘と言わざるを得ないかもしれない。
そんな式の方が私は好きだ。
そして何より、こっちのブログはこんな適当な記事でも書けるから好きである。