tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

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e と 1/e の話

前回、ネイピア数  e の話をしたので、今度は  1/e の話をしよう。

 e の定義はこうだった。

 \displaystyle \lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n = e \tag{1}

で、ここにひとつマイナスをつけると  1/e が現れる。

 \displaystyle \lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)^n = \frac{1}{\;e\;} \tag{2}

一瞬「えっ?」って思うかもしれない。マイナスを付けただけで、逆数になってしまうのだから、ちょっと不思議な感じがする。


が、少し計算してみるとたしかに  1/e になることがわかる。式 (2) の左辺を変形していこう。

 \displaystyle \lim_{n\to\infty}\left(1 - \frac{1}{n}\right)^n = \lim_{n\to\infty}\left(\frac{n - 1}{n}\right)^{n}

 \displaystyle  = \frac{1}{ \lim_{n\to\infty}\left(\frac{n}{n - 1}\right)^{n} }

 \displaystyle  = \frac{1}{ \lim_{n\to\infty}\left(1 + \frac{1}{n - 1}\right)^{n} }

 \displaystyle  = \frac{1}{ \lim_{n\to\infty}\left(1 + \frac{1}{n - 1}\right)^{n-1} \cdot \left(1 + \frac{1}{n - 1}\right) }

最後に式 (1) を代入すると、

 \displaystyle  = \frac{1}{e \cdot 1 }

となる。たしかに一致した。



この  1/e という数だが、いろんなところで登場する数らしい。

たとえば、こんな確率の話がある。

 1 から  n までの数字が書かれたカードの組が2つあって、一方の組を A さんが、もう1方の組を B さんが持っているとする。二人がそれぞれ  1 から  n までのカードに対して、適当に順番を決めて、一斉に並べたとしよう。このとき、同じ順番に同じ数字のカードが1組も並ばない確率を考える。これを  p_n とする。

この  p_n の極限が  1/e に一致するのだ。本当にそうなるのか確認してみよう。

まず、 1 のカードが同じ順位に並ぶ確率は  \frac{1}{n} だ。並ばない確率は  \left(1 - \frac{1}{n}\right) だ。

同様に、 2 のカードが同じ順位に並ぶ確率も  \frac{1}{n} だ。並ばない確率も同様に  \left(1 - \frac{1}{n}\right) である。

このように繰り返していくと、 p_n はこれらの  n 個の確率の積にほかならないから、

 \displaystyle p_n = \left(1 - \frac{1}{n}\right)^n \tag{3}

であることが分かる。

ここで、今得られた式 (3) の形は、式 (2) にそっくりである。 n \to \infty の極限をとれば完全に一致するだろう。

したがって、同じ数字のカードが1組も並ばない確率は、カードの枚数  n が大きくなればなるほど  1/e に近づいていくのだ。


「そんな特殊なカードゲームの話をして何になるんだ」と思うかもしれない。実はまったく現実離れした話というわけでもないらしい。

たとえば、今挙げた  1 から  n までのカードを、 n 個に分類した「人の趣向」を表すと考えてみよう。たとえば、 1 は「買い物が好き」とか、  2 は「食べるのが好き」とか、  3 は「部屋はきれいな方が落ちつく」とかだ。

こうした趣向に対して、A さん B さんのそれぞれの好みに合わせて順位付けをしてもらう。ちなみに、私は  1, 3 より  2 の方が順位が高い。

もし、同じ順位に同じ趣向が1つでもあれば、その二人は少なくとも1つは同じ感性を持っているといえる。逆に、同じ順位にある趣向が1つもなければ、まったく異なる感性を持っているといえる。端的に言うと相性が悪いのだ。

つまり先ほどの、何の役に立つか分からないと思われたカードゲームは、人の好みのマッチング問題と見ることもできるわけだ。ここまでの話では、人の趣向の種類を  n 個と仮定しているが、実際は有限個とは限らないから、無限通りの趣向に対するマッチングを考えることになるだろう。したがって、2人の感性が全く合わない確率は、  1/e に限りなく近づく。

 1/e = 0.3678... はおよそ  1/3 程度だから、出会った人の  1/3 は、まったく感性が合わないということになる。逆に考えれば、 2/3 の人はなんらかの点において、同じ感性を持っているということだから、高望みしなければ誰かしら相手は見つかるだろう。

このような例は、実はいくつも考えることが出来て、その度に  1/e が登場するのだという。なかなか面白いだろう。


一つ注意しておきたいが、私は「 1/e という数は、森羅万象を表す神秘的な数なんだ」などというデタラメを言うつもりは全くない。こういう式に登場するのは「たまたま」だと私は思う。あえて言うなら、 e の定義式がシンプルできれいなので、いろんなケースに当てはめやすいということなのだろう。

むしろ、非常に入り組んだややこしい式が、たまたまこういう確率をうまく表していたりしたら、それは神秘と言わざるを得ないかもしれない。

そんな式の方が私は好きだ。



そして何より、こっちのブログはこんな適当な記事でも書けるから好きである。