今,「互いに素」が熱い。
互いに素という言葉は,否定的な響きのする数学用語であるが,こと整数論においては非常に強力な武器なのだ。
互いに素といえば「ユークリッドの互除法」を思い出す。互いに素な2つの数から,ユークリッドの互除法により という数を作ることができる。これが本当に強力なのである。
例を挙げよう。
ある群 G の元 g をとってきて,その元が以下の式を満たすとする。 は の単位元である。
ここで, であるから,ユークリッドの互除法により,
となるような整数 が存在する。したがって,
が成り立つ。左辺に を代入すると,結果として
という結論が得られるわけだ。
この話はもう少し応用が利く。
たとえば, という数が素数で,先の群の位数 を割らないとしよう。すなわち,
である。
先ほどと同様に,
とする。
また,有限群におけるフェルマーの小定理により,
が成り立つ。
ここで, であるから,先ほどと全く同様に,
となるような整数 が存在する。したがって,
となって,結局,
を得る。
互除法はユークリッド環しか適用できないから,一見,適用範囲が狭そうに思えてしまう。しかしながら,先の例のように,群 の元の指数を考えれば,その指数は の元になるわけで,単なる整数である。すなわち,ユークリッド環を考えているわけだ。
指数を の元と見立てて, と互いに素な には逆元が存在する,といってもいい。全く同じことを言っているだけだ。
つまり,有限群でありさえすれば,どんな群にも使えてしまう強力な論法なのである。
有限群と言えば,イデアル類群も有限群だ。
あるPIDでない二次体か円分体 を考えて,そのイデアル類群の位数 と互いに素な を用意し, のイデアル の 乗を考える。もし, が単項イデアル(すなわちイデアル類群における単位元)であれば,即座に が単項イデアルであることがわかるのだ。
「単位元である」ということは,イデアル類群においては「単項イデアルである」ということに他ならない。整数論においては「単項イデアルかどうか」は非常に重要な問いであるから,この問題は考えるに値するといえる。
私がこの話に興味を持ったのは「フェルマーの最終定理におけるクンマーの証明に使われているから」なのだが,「互いに素」という事実だけを使っているのが最高にクールだと思う。
クンマーの証明は「円分体 の類数 を が割り切らないときに限り,フェルマーの最終定理が解決する」というものだ。残念ながら,この話をするためには,事前準備がもう少し必要だ。
今日はこの辺にしておこう。