tsujimotter-sub.hatenablog.com
の続き。12については、下書き記事があるので、そのうち公開する。
下巻、第4章「楕円曲線の岩澤理論」を読んでみての感想とまとめを書く。これまでは毎週書いていたが、とても書く余裕がないので、キリのいいときに書くことにする。
- 作者: 落合理
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/08/25
- メディア: 単行本
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まず,下巻を読み始めてたった50ページなのに、半年以上かかってしまった。かっこ悪いことであるが、朝岩澤理論をサボってしまっていたのだ。
いろいろ理由はありました。上巻を終えたり4月あたりから、仕事が忙しかったり体調が優れなかったり。
5月頃から、ぱったりやらなくなってしまっていました。
その間、別の分野の勉強をしたり、Iwasawa2017に参加したり、MathPowerに出て岩澤理論の発表をしたりいろいろありました。
9月の中ごろから、ようやくモチベーションが復活して、少しずつでも進めようと勉強を再開しました。そこから1ヶ月半くらいで、ようやく第4章が終わったところです。
結構大変だった。なにせ内容が難しいのです。下巻になってから、前提知識が増え本当に一気に難しくなりました。
でも面白い部分もありました。読んでよかったと思っています。面白かった部分を覚えている範囲で雑多に紹介していきたい。
上巻の内容は「イデアル類群の岩澤理論」でした。
下巻は「楕円曲線の岩澤理論」から始まります。
大事なポイントは以下の4つ。
- セルマー群(古典的な方)のコントロール定理
- 古典的セルマー群とGreenbergのセルマー群の関係
- p進L関数の存在定理
- セルマー群の有限性定理
- 岩澤主予想
第4章前半の山場は、セルマー群のコントロール定理でした。イデアル類群の岩澤理論における「岩澤類数公式」に相当する定理です。類数公式は、 のイデアル類群 の位数(のp部分)を p のべきで具体的にコントロールできるものでしたが、セルマー群のコントロール定理は少し要領が異なります。 のセルマー群の位数(のp部分)を のセルマー群(の p 次巡回群に対する不変部分)への制限写像 でコントロールでき、 のカーネルとコカーネルが有限で によらないというものです。
ただ、証明がとても長くて、かなり難しかったのであんまり理解できていない。この証明のところあたりから空白期間が始まったので、正直あまり覚えていないという状況。いつかまた読み返したい。
その後、Greenbergのセルマー群と古典的なセルマー群の関係についてやりました。次節からはGreenbergのセルマー群しか出てこないので、この関係は大事。証明にはコントロール定理を使う。
続いてp進L関数。楕円曲線のp進L関数では、Hasse-WeilのL関数をp進的に補間して定義される。
ただし、ここで「イデアル類群の岩澤理論」との違いが現れる。イデアル類群の岩澤理論では、リーマンゼータ関数の負の整数点と有限指標で補間した。一方、Hasse-Weilの方は、負の整数点はほとんどゼロになってしまう。関数等式を考えても、正の整数点も扱いづらい。したがって、 の点だけを使って、有限指標で補間するという発想になる。
たしかに、上巻のときも、落合先生は有限指標で補間することを強調されていた。
実際、リーマンゼータのように負の整数点が使えるケースはまれらしく、一般には今回のような方法を使うほかないらしい。
あと、もうひとつ面白かったのが関数等式や解析接続。Hasse-Weil Lの関数等式や解析接続は、そのままでは示すのが困難。一方で、 上であれば志村谷山予想が示されているので、モジュラー性より対応するHecke L関数がある。Hecke Lの方では、関数等式や解析接続がわかるので、Hasse-Weilもわかってしまう。モジュラー性がもはや前提になっているのだ。
ちなみに、虚数乗法を持つ場合には、代数的Hecke指標(Heckeの量指標Größencharakter)のL関数があって、それでかけるので定義体によらず一般に関数等式や解析接続が示せる。ちなみに、これはSilvermanの楕円曲線概論の上巻「虚数乗法」の最終節にも載ってる話だった。
セルマー群の有限性の証明では、Beilinson-KatoのEuler systemを使って証明の概略が示された。
Beilinson-KatoのEuler systemの具体的な構成は出なかったが、pの外不分岐な(テイト加群係数の)ガロアコホモロジーの元であることはわかった。
証明の概略では、セルマー群の大きさをコントロールしつつ、Euler systemの性質を使って、 を足していくという感覚がわかって嬉しかった。
Kolyvaginが言っていた「p進L関数にはオイラー積がないけれど、オイラーシステムはそれの代わりになるもの」という感覚がなんとなくだけどわかった気がした(出典は「数学のたのしみ 岩澤理論の全貌」の栗原先生の記事)。
ともかく、これで有限生成ねじれ加群であることが示せるので、特性イデアルが定義できて岩澤主予想の土台に乗せることができるのだ。
最後は、岩澤主予想。楕円曲線の岩澤主予想は、ものすごくざっくり言うと
という関係式である。等式は、 のイデアルとしての等式。
したがって、
の両方を示せばよい。
上のp通常的な楕円曲線が虚数乗法を持つ場合には、Rohrlich-Rubinが証明している。
一方, 上のp通常的な楕円曲線が虚数乗法を持たない場合には、いくつかの仮定のもとRohrlich-Katoが式 を、Skinner-Urbanが式 をそれぞれ証明している。
Katoの方はEuler systemを使って、Skinner-Urbanの方はMazur-Wilesのモジュラー的な方法に準じた方法を用いて証明している。
ここでようやく岩澤主予想の証明が2通り必要だったわけがわかった。すなわち、イデアル類群の岩澤主予想については解析的類数公式があったおかげで、片方の包含関係があれば自動的に両方が示されたわけだが。しかし、楕円曲線の方はそうはいかないから、両側を示すしかないのだ。
ところで、オイラーシステムを使った方は、どうも 分のずれが出てしまうらしい。たしかに円単数のときもそんな兆候はあった。モジュラー的な方法では、ぴったりいくという特徴があるらしい。
あと、Katoの方法は虚数乗法を持たない場合にしか使えないらしい。「虚数乗法を持たない場合にしか使えない」という感じが、これまで全然想像できなかったのだが、ようやくわかった気がした。証明の肝は、ガロア表現 が十分大きいことで、虚数乗法を持つ場合はこれが小さくなってしまうので、うまくいかないのだろうと思われる。
この辺を知ることができたのが収穫だった。
さて、次章からは「p進表現の岩澤理論」がはじまる。楕円曲線の岩澤理論は,楕円曲線を のモチーフ の岩澤理論として解釈されるらしい。第5章でセッティングを述べて、第6章で結果を述べるらしい。
p進表現の岩澤理論(あるいはモチーフの岩澤理論と呼ぶべきかよくわからない)では、基本予想ABC(セルマー群の有限性予想、p進L関数の存在予想、岩澤主予想)が大事らしい。
第4章でも、p進L関数の存在定理や岩澤主予想は紹介されたが、証明はほとんどついていなかった。
p進表現に一般化させてから第6章で証明する方針らしくて、やっぱり第6章まで読んでおくべきだろう,と感じた。
今後ももっと難しくなることが予想されるけど、きっと牛歩だろうけど、ちょっとずつでも進めていこうと思う。
以上です。