tsujimotterの下書きノート

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積分定数(その2)

まさかその2を書くことになるとは思わなかった。

先の記事をツイートしたら、umezakiさんという方から「積分定数は0次のド・ラームコホモロジーとみなせる」ということを教えて貰った。感激したので、忘れないうちにメモ。

ド・ラームコホモロジーについては、以下の記事で丁寧すぎるぐらい書いたので見て欲しい:
tsujimotter.hatenablog.com


ただし、上の記事で0次のド・ラームコホモロジーを定義するのは無理がある。というのも、

 B^r(M) = \{ \underbrace{d\omega}_{\omega の外微分はr\text{-}形式 }\;\; \mid \;\; \omega \in \underbrace{C^{r-1}(M)}_{(r-1)\text{-}形式} \}

というベクトル空間を定義しているのだが、 r = 0 を入れると「 (-1)-形式」という謎の概念が出てきてしまう。結果的に言うと、「 (-1)-形式」は 0 であると見なせばいいのだが、説得力がない。


うまいこと定義するためには、ド・ラーム複体というものを考えたほうがよさそうである。同様に、 C^r(M) M 上の  r-形式全体の空間とし、 d^r: C^r(M) \to C^{r+1}(M) を外微分とする。この写像をつないでいくと、以下のような系列が得られる:

 0 \xrightarrow{d^{-1}} C^0(M) \xrightarrow{d^0} C^1(M) \xrightarrow{d^1} C^2(M) \xrightarrow{d^2} C^3(M) \xrightarrow{d^3} \cdots

一番左の写像  d^{-1} : 0 \to C^0(M) は、0 を  C^0(M) の 0 に写すいわゆる「0射」である。

このようにすると、 r \geqq 0 に対して  d^r \circ d^{r-1} = 0 を満たすので(2つ先まで飛ばすと0になる)、複体の条件をみたす。これをド・ラーム複体と呼ぶ。

複体に関しては、「いつものように」コホモロジーを定義できて、

 H^{r}_{\text{dR}}(M) = \text{Ker}\,d^r / \text{Im}\,d^{r-1}

となる。これを  r-次のド・ラームコホモロジーと呼ぼう。このような、複体からコホモロジーを定義するときの考え方については「コホモロジーの心」という本の説明が大変わかりやすい。

このド・ラームコホモロジーは、上の記事の定義とまったく同じものを指していることに注意しよう。次のような対応関係がある:

 Z^{r}(M) = \text{Ker}\,d^r
 B^{r}(M) = \text{Im}\,d^{r-1}

上のように定義しておくと、 d^{-1} があるおかげで、 r = 0 においてもド・ラームコホモロジーが定義できる。やったね。

また、このように見ると  C^{-1}(M) := 0 と定義するのがうまいやり方のように見える。プログラミングでいうところの「番兵」みたいなものだろうか。たとえが伝わらないかもしれないが。


さて、このように0次ド・ラームコホモロジー  H^{0}_{\text{dR}}(M) を定義したわけだが、 M = \mathbb{R} として計算してみるとどうなるだろうか。

まず、 \text{Im}\,d^{-1} は明らかに 0 である。 d^{-1} は0射なので、0射の像は当然 0 である。となると、

 H^{0}_{\text{dR}}(\mathbb{R}) = \text{Ker}\,d^0

である。 d^0 という写像の核を考えれば良いから、

 d^0 \omega = 0

を満たすような0-形式  \omega を考えればよいことになる。0-形式だから  \omega \mathbb{R} 上の関数。

あれ、ってことは、単に微分して 0 になるような関数ってことじゃないか!これって、一個前の記事の

 y' = 0

の解  y を求めよってことだ。これは  y = C \in \mathbb{R} じゃないか。

というわけで、 \mathbb{R} の0次ド・ラームコホモロジー

 H^{0}_{\text{dR}}(\mathbb{R}) = \mathbb{R}

こそが、積分定数の空間の正体だったというわけだ。これは面白い!!!