tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

記事一覧はこちらです。このブログの趣旨はこちら

メインブログである「tsujimotterのノートブログ」はこちら

素因数分解の一意性と単数

とても良い気付きを得たのでメモしておく。

整数  \mathbb{Z} の世界では,素因数分解は一意に定まる。

つまり,

 10 = 2\times 5

のように書けて,これ以外の形で分解されることはない。これを,素因数分解の一意性という。


一方で, \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] の世界を考えると,この世界では素因数分解の一意性は保たれない。

具体的に有名な例を挙げると,

 6 = 2\times 3

と分解されるが, これと異なる分解方法も存在する。

 6 = (1-\sqrt{-5})\times (1+\sqrt{-5})

ここで, 2, 3, (1-\sqrt{5}), (1+\sqrt{5}) はそれぞれ, \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] における素数であるから,これ以上分解されることはない。したがって,素因数分解は二通りのままである。


二次体の整数環を考えていったときに,一番最初に素因数分解の一意性が失われるのが,この  \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] なので,よく例に挙がるのだ。(「やり玉に挙がる」と言ってもよさそうだ。)

* * *


ここで,これの前に登場する二次体の整数環は,果たして一意性がちゃんと保たれているのだろうか,という疑問が新たに沸いてくる。


このように考えてみたところ,アイゼンシュタイン整数  \mathbb{Z}[\omega] (ただし, \omega = \frac{1+\sqrt{-3}}{2} )において,反例が見つかったのではないか,と一瞬焦ってしまった。(正確に言うと,1時間ぐらい唸っていた。)


具体的に例を挙げると,こういうことである。 4 というアイゼンシュタイン整数を考えたときに,

 4 = 2\times 2

のように分解されるが,一方で

 4 = (1-\sqrt{-3})\times (1+\sqrt{-3})

のような分解も可能である。

ここで,それぞれの数が素数であるか,すなわち「これ以上分解できないかどうか」が問題である。


 2 は素数っぽい。じゃあ, (1-\sqrt{-3}) は素数でないのか?

たしかに, 2 で割れば, \frac{1-\sqrt{-3}}{2} となってこれもアイゼンシュタイン整数だ。

ん?あれ? 2 で割ったということは,

 \displaystyle \frac{1-\sqrt{-3}}{2} \times 2 = 1-\sqrt{-3}

とかけるということだ。すると,こうなるだろう。

 \displaystyle 4 = \frac{1-\sqrt{-3}}{2} \times 2 \times \frac{1+\sqrt{-3}}{2} \times 2


ちょっと待て。

これって結局, 4 を二通りの方法で表しているではないか!
素因数分解の一意性が失われとるやんけ!

と思って混乱したのである。

いったいどう解釈したらよいものか。


* * *


分かってみるとあっけないのだが,この考えはやはり間違っている。
では,この現象はどのように解釈すれば良いか。


まず,整数  \mathbb{Z} の場合について改めて考えたい。

最初の例は,(実を言うと)以下のように表すことも出来てしまう

 10 = (-1) \times 2\times (-1) \times 5


一方,この式を見て「素因数分解の一意性が失われた」とわざわざ言う人はいないであろう。

この, (-1)単数と言って「素因数分解の一意性を考える上では無視される」のである。ちなみに, 1 も単数である。

つまり,これも

 10 = 1 \times 2\times 1 \times 5

これも

 10 = 1 \times 2\times 1 \times 5

これも

 10 = (-1) \times 2\times (-1) \times 5

(本質的には)同じ分解と考えてよい,ということである。


別の言い方をすると,単数を  \gamma としたとき, \gamma を素数  p にかけ合わせた数  \gamma \times p は,素数  p と同じ数への分解と見なしてよい,ということでもある。


さて,ここでアイゼンシュタイン整数に戻るが, \mathbb{Z}[\omega] においては,単数は全部で 6 個ある。列挙するとこうだ。

 1, -1, \omega, (-\omega), (1-\omega), (-1+\omega)

ここで,先ほど  2 の前にかかっていた数を考えると,

  \displaystyle \frac{1-\sqrt{-3}}{2} = 1-\omega

  \displaystyle \frac{1+\sqrt{-3}}{2} = \omega

であるから,結局単数だったのである。


したがって,これらを  \gamma_1, \gamma_2 とおけば,

 \displaystyle 4 = \gamma_1 \times 2 \times \gamma_2 \times 2

となって,「単数がかかっていただけ」ということがわかったのである。

また,別の見方をすると, 2 (1-\sqrt{-3}) の間には,

 \displaystyle (1-\sqrt{-3}) = \gamma_1 \times 2

の関係があるので,(単数を除くと)同じ数への分解である,とも言えますね。

かくして,アイゼンシュタイン整数において,無事に素因数分解の一意性は保たれたのでした。


あー,すっきりした。


理論を追っているときは,どうしても「単に面倒なだけの単数」と思ってしまう。しかしながら,今回の例のように,ちゃんと考慮に入れないといけないものなのである。意外なところに落とし穴があるのだ。

一方で,このようなことを正確に伝えようとすると,なかなか大変であるというのもまた事実。実際,よくある「通俗書」的な文章では,単数の話は隠蔽されて,表面の面白いところだけに絞って話される。じゃあ,通俗書で興味を持ったから,いざ「専門書」を開いてみようと思うと,圧倒的な難しい記述に面食らってしまうのだ。

「通俗書」と「専門書」には,やはり大きなギャップがあるのだな,ということをしみじみと実感したのでした。

参考文献

今回の内容に相当する「専門書」といえばこれ。

初等整数論講義 第2版

初等整数論講義 第2版


「通俗書」は,そうだなあ・・・。何が良いだろう。ぱっと思いつかないので,あとで追加するかも。