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tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

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Z[√-5] のイデアルについて (1)

3回に渡って「整数論」に関する1つの興味深いトピックについて書いていこうと思う。


二次体  K = \mathbb{Q}(\sqrt{m}) 上の整数環  \mathcal{O}_K を考えたときに,その代数的整数に対して「素因数分解の一意性は必ずしも保証されない」という問題についてだ。


たとえば, m = -5 として,虚二次体  K = \mathbb{Q}(\sqrt{-5}) を考えよう。その代数的数全体は環をなすが,その整数環は  \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] である。

 \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] の定義は以下の通りだ。

 \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] = \left\{a + b\sqrt{-5} \mid a, b \in \mathbb{Z} \right\}

念のため断わっておくと,整数環はいつでもこうなるわけではなく,二次体の判別式によってはもっと複雑な形になる場合もある。


さて, \mathcal{O}_K の数としては, 2, 3, 1-\sqrt{-5}, 1+\sqrt{-5} そして  6 などがあるが,これらの間には以下のような関係が成り立つ。

 6 = 2\cdot 3 = (1-\sqrt{-5})(1+\sqrt{-5}) \tag{1}

ここで, 2, 3, 1-\sqrt{-5}, 1+\sqrt{-5} はそれぞれ  K = \mathbb{Q}(\sqrt{-5}) 上の単数  \pm 1 以外の数では割り切れないから, K 上の素数である。

念のため,素数であることを確認するために,ノルムという概念を考える。

二次体  K = \mathbb{Q}(\sqrt{m}) の任意の数を  \alpha = a+b\sqrt{m} としたとき,そのノルム  N(\alpha) は以下のように表せる。

 N(\alpha) = a^2 - m b^2

今回は  m = -5 なので, N(\alpha) = a^2 + 5 b^2 だ。先ほどの  4 数のノルムは,

 N(2) = 2^2 + 5 \cdot 0^2 = 4
 N(3) = 3^2 + 5 \cdot 0^2 = 9
 N(1-\sqrt{-5}) = 1^2 + 5 \cdot (-1)^2 = 6
 N(1+\sqrt{-5}) = 1^2 + 5 \cdot 1^2 = 6

となる。

重要な定理として, \alpha \beta で割り切れるなら, N(\alpha) N(\beta) で割り切れなければならない,というものがある。

したがって,上の 4 数を割り切るような数が存在するとすれば,その数のノルムは  \pm 2, \pm 3 のいずれかである。虚二次体のノルムは正になるので, 2, 3 の2通りについて考えればよい。このようなノルムを持った数は, \mathcal{O}_K には存在しない。なぜなら,もし存在するとすると,以下の式を満たすような整数, a, b が存在しなければならないからだ。

 a^2 + 5 b^2 = 2
または
 a^2 + 5 b^2 = 3

調べてみればすぐにわかるが,こんな数は存在しない。よって,先ほどの 4 つの数は素数である。


こうして,式 (1) は「素因数分解が2通りの方法でなされた」ということを意味していることがわかった。

さて困った。素因数分解の一意性が保証されないと,いろいろ困る。


この問題については,クンマーやデデキントという数学者らがあれこれ考えて,最終的に解決策が出ている。イデアルというものを考えれば「素因数分解の一意性」に似た概念をもたせることができるのだそうだ。イデアルの分解だから「素イデアル分解」と言った方がよいだろうか。


で,これから述べていきたい話は「それはどうやって実現したのか?」という話である。


アイデアのキモは「数の計算はやめにして,イデアルの計算にすべて置き換えてしまおう」というものである。

イデアルの説明はあとでするにして,ざっくりとアイデアの概要を説明しておこう。

まず, 6 そのものではなく,そのイデアル  (6) を考える。このイデアルを分解すると,次の式のように  P, P', Q, Q' の4つの「素イデアル(イデアルの素数に相当する概念)」の積に分解することが出来る。

 (6) = (2) (3) = (1-\sqrt{-5})(1+\sqrt{-5}) = P \cdot P' \cdot Q \cdot Q'

ここで, P, P', Q, Q' は次の4つの関係式を満たす。

 P P' = (2)
 Q Q' = (3)
 P Q = (1+\sqrt{-5})
 P' Q' = (1-\sqrt{-5})

結局, (2), (3), (1-\sqrt{-5}), (1+\sqrt{-5}) は,数の世界では素数に見えたが,イデアルの世界に行くとまだまだ分解できる先があった,というオチである。


このアイデアは非常に面白いので,今すぐにでも詳細を書いてしまいたいのだが,書いてみるととてつもなく長くなってしまいそうなので,いったんここで切ることにする。



次回に続く
tsujimotter-sub.hatenablog.com