3回に渡って「整数論」に関する1つの興味深いトピックについて書いていこうと思う。
二次体 上の整数環 を考えたときに,その代数的整数に対して「素因数分解の一意性は必ずしも保証されない」という問題についてだ。
たとえば, として,虚二次体 を考えよう。その代数的数全体は環をなすが,その整数環は である。
の定義は以下の通りだ。
念のため断わっておくと,整数環はいつでもこうなるわけではなく,二次体の判別式によってはもっと複雑な形になる場合もある。
さて, の数としては, そして などがあるが,これらの間には以下のような関係が成り立つ。
ここで, はそれぞれ 上の単数 以外の数では割り切れないから, 上の素数である。
念のため,素数であることを確認するために,ノルムという概念を考える。
二次体 の任意の数を としたとき,そのノルム は以下のように表せる。
今回は なので, だ。先ほどの 数のノルムは,
となる。
重要な定理として, が で割り切れるなら, は で割り切れなければならない,というものがある。
したがって,上の 4 数を割り切るような数が存在するとすれば,その数のノルムは のいずれかである。虚二次体のノルムは正になるので, の2通りについて考えればよい。このようなノルムを持った数は, には存在しない。なぜなら,もし存在するとすると,以下の式を満たすような整数, が存在しなければならないからだ。
または
調べてみればすぐにわかるが,こんな数は存在しない。よって,先ほどの 4 つの数は素数である。
こうして,式 (1) は「素因数分解が2通りの方法でなされた」ということを意味していることがわかった。
さて困った。素因数分解の一意性が保証されないと,いろいろ困る。
この問題については,クンマーやデデキントという数学者らがあれこれ考えて,最終的に解決策が出ている。イデアルというものを考えれば「素因数分解の一意性」に似た概念をもたせることができるのだそうだ。イデアルの分解だから「素イデアル分解」と言った方がよいだろうか。
で,これから述べていきたい話は「それはどうやって実現したのか?」という話である。
アイデアのキモは「数の計算はやめにして,イデアルの計算にすべて置き換えてしまおう」というものである。
イデアルの説明はあとでするにして,ざっくりとアイデアの概要を説明しておこう。
まず, そのものではなく,そのイデアル を考える。このイデアルを分解すると,次の式のように の4つの「素イデアル(イデアルの素数に相当する概念)」の積に分解することが出来る。
ここで, は次の4つの関係式を満たす。
結局, は,数の世界では素数に見えたが,イデアルの世界に行くとまだまだ分解できる先があった,というオチである。
このアイデアは非常に面白いので,今すぐにでも詳細を書いてしまいたいのだが,書いてみるととてつもなく長くなってしまいそうなので,いったんここで切ることにする。