tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

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Q. 無限級数の掛け算のやり方 についての回答

本編のブログ、
tsujimotter.hatenablog.com

の数式展開について、以下のような質問をいただきました。

okwave.jp


上に書いた私の回答におきまして、数式箇所が読みづらかったため、こちらのブログに同様の内容を書き留めておきたいと思います。

時間ができたら、本編のブログにも、改めて解説を書きたいと思っております。

* * *


問題となっている記事の作者です。私の説明がわかりづらかったようで申しわけありません。

まず、1点ご指摘したいのは、質問者様の画像の式は、左辺が発散してしまいますので、等式は成り立ちません。以下の(式1)のように、すべての項に "s" 乗をした上で s の範囲を s > 1 としてください。この範囲であれば、収束して左辺は値を持ちます。

 \displaystyle \begin{eqnarray} \frac{1}{1^s} + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{4^s} + \frac{1}{5^s} + \cdots &=& \left(1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{2^{2s}} + \frac{1}{2^{3s}} + \cdots  \right) \\
&&\times \left(1 + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{3^{2s}} + \frac{1}{3^{3s}} + \cdots  \right) \\
&&\times \left(1 + \frac{1}{5^s} + \frac{1}{5^{2s}} + \frac{1}{5^{3s}} + \cdots  \right) \\
&&\times \cdots \end{eqnarray} \tag{式1}

もう1点。今回の式は、左辺から右辺を導こうとすると「式の因数分解」の問題になって厄介です。逆に、右辺から左辺を導くのであれば「式の展開」で済みますので、こちらの方針で行こうと思います。

その上で、より丁寧に説明させていただきます。


質問者様がおっしゃっているように、オイラー積の式は「無限級数の無限回数の掛け算」となっていますので、なかなか直感的には理解が難しいですよね。

いきなり「無限級数」の「無限回数」の掛け算は難しいので、まずは「有限和」の「有限回」の積から初めてみるのはいかがでしょう。

(式2)では、素数を "2" と "3" だけ考えて、さらにそれぞれ2項ずつに限定した積の形の式となっています。(2項)×(2項)なので、左辺を展開すると、右辺のように4つの項が現れます。計算してみると、右辺には 1, 2, 3, 6 のように「 2 と 3 をそれぞれ最大1回ずつつかったすべての数」が現れていますね。

 \displaystyle \left(1 + \frac{1}{2^s}  \right)\times \left(1 + \frac{1}{3^s} \right) = \frac{1}{1^s} + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{6^s} \tag{式2}

(式3)では、1, 2, 2^2 のように「2の2乗の項」まで含んだ式となっています。同様に素数 "3" についても 1, 3, 3^2 のように「3の2乗の項」まで含んでいます。この式を展開すると、右辺のように9つの項が現れますが、いずれの数も「 2 と 3 をそれぞれ最大2回ずつつかったすべての数」となっています。

 \displaystyle \begin{eqnarray}  &&\left(1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{2^{2s}} \right)\times \left(1 + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{3^{2s}} \right) \\
&& = \frac{1}{1^s} + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{4^s} + \frac{1}{6^s} + \frac{1}{9^s} + \frac{1}{12^s} + \frac{1}{18^s} + \frac{1}{36^s} \end{eqnarray} \tag{式3}


この調子で一般化しましょう。
(式4)では、素数 2, 3 について、それぞれ「2のn乗の項」「3のn乗の項」まで含んだ式同士の積となっています。同様に展開すると、右辺には「 2 と 3 をそれぞれ最大 n 回ずつつかったすべての数」が現れるでしょう。

 \displaystyle  \begin{eqnarray} \left(1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{2^{2s}} + \cdots + \frac{1}{2^{ns}} \right)\times \left(1 + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{3^{2s}} + \cdots + \frac{1}{3^{ns}} \right) \\
= \frac{1}{1^s} + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{4^s} + \frac{1}{6^s} + \cdots + \frac{1}{(2^n \cdot 3^n)^s} \end{eqnarray}  \tag{式4}

ここで、n を無限大に飛ばすとどうなるでしょうか。左辺は(式5)となり、展開した右辺には、「 2 と 3 だけを素因数に用いるすべての数」が「それぞれ1度ずつ」現れることでしょう。気をつけていただきたいのは、すべての数が「1度ずつ」しか現れないということです。

 \displaystyle  \left(1 + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{2^{2s}} + \cdots  \right)\times \left(1 + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{3^{2s}} + \cdots \right) \tag{式5}


ここまでご理解いただければ「無限級数」の「有限回の積」は解決です。


上の議論は、素因数として "2", "3" の2つのみを考えました。これを同様に "2", "3", "5" のように3つに増やすこともできるでしょう。この場合、右辺の式には「 2, 3, 5 だけを素因数に用いるすべての数が、ぞれぞれ1度ずつ現れる」ことになりますね。素因数を "2", "3", "5", "7" の4つにすれば「 2, 3, 5 だけを素因数に用いるすべての数が、それぞれ1度ずつ現れる」式が出来上がります。

この延長線上で「無限に存在するすべての素数」を用いて考えた式が、冒頭の(式1)です。式を展開すると「素数 2, 3, 5, 7, ... を素因数に用いるすべての数」が「それぞれ1度ずつ現れる」ことになります。ここで、「素数 2, 3, 5, 7, ... を素因数に用いるすべての数」とはいったい何かというと、要するに「すべての正の整数」のことですね。


以上により、素数を使った無限級数の無限回の積が、すべての正の整数を使った和の形で表せるという、巧妙な式が導けました。

ご不明な点があれば、またブログ等でもご質問いただけますと幸いです。


参考文献

今回の内容は「数学ガール」の以下の巻の解説が一番わかりやすいかと思いますので、参考までにご紹介します。

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学的に厳密な記述は、最近発刊された小山先生の「素数とゼータ関数」の定理 3.3 をご覧になるとよいかと思います。

素数とゼータ関数 (共立講座 数学の輝き)

素数とゼータ関数 (共立講座 数学の輝き)