本記事は,こちらの記事のコメント欄における質問に対する回答です。
id:kimko379 さま
お返事遅くなりすみません。
ご質問の件について,少々長くなりましたがこちらで解説いたします。
まず,ご質問の内容は以下のものでした。
1.先生の、パワー・アップ後のグラフの、オレンジ色の線の関数に於ける k と、下記のURLの、R_n(x) に於ける n とは、本質的に同じ物でしょうか。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12168471212
2.パワー・アップ前のページの、I(x) (アイ・エックス)の公式をお教え頂けますでしょうか。
確認事項ですが,質問の の式とは,上記の Yahoo! 知恵袋の質問の中にある以下のリンク
http://empslocal.ex.ac.uk/people/staff/mrwatkin/zeta/encoding1.htm
という英文記事における のことですね。
また,「パワー・アップ後のグラフ」いうのは私のブログ記事
で紹介した以下のリンク先のアプリケーション
におけるオレンジ色の線(あるいは赤線)のグラフのことですね。
なお,「パワー・アップ前」とは,「パワー・アップ後」の記事以前に書いた
の記事のことですね。
以上の確認を踏まえた上で,回答させていただきます。
質問2の回答
まず,わかりやすいので質問2の方から先にお答えします。
は以下の形で定義される関数です。
はメビウス関数と呼ばれるもので, が平方数を因子に含むとき ,それ以外のときに
- の素因子の個数が偶数であれば
- の素因子の個数が奇数であれば
を返す関数です。
したがって,「パワーアップ前の記事」のリーマンの素数公式は
と記述していましたが,上の式に の定義をそれぞれ代入すると,
となります。これが一般的に用いられる「リーマンの素数公式」と呼ばれる式です。
すなわち,リーマンの素数公式は
という本質的に3つの項によって成り立っています。
1項目は「主要部」と呼ばれ,素数階段の近似の主要部分を担っています。
2項目は「振動部」と呼ばれ,これが「ゼータ関数の非自明な零点」に関係する項です。 ひとつ分が「 番目の非自明な零点による寄与」を表した項です。主要部 に対して, を から順番に足しあわせていくと,だんだんと素数階段 に近づいていくのです。
3項目はおまけみたいなもので,第1項と第2項と比べると十分小さく,どの をとってもほとんど に近いので無視してもさほど目立たない項です。とはいえ,厳密に言えばこの項も含めないと には一致はしません。理論的には,この項は「自明な零点」の寄与と考えることができます。
質問1の回答
さて質問1の方ですが,これについては「ややこしい事情」がありますので,前提となる説明をしてから回答に移ります。
まず,「パワーアップ後の記事」で用いている公式は,実は式 ではないのです。 よりも簡略化した以下のものを用いています。
式 の右辺全体に をかけて, を に置き換えると,式 の右辺に一致します。また,左辺は式 の を に置き換えると一致します。
「パワーアップ後の記事」で用いる数式を変更したのは,式の構造を簡単化するためです。そのためパワーアップの前後で,左辺が素数の個数関数 から に変わってしまっています。 も素数階段のような関数ですが,特に名前はついていません。「離散関数」と呼んでいる文献を見たことがあります。
リーマンの原論文に登場している関数なので,私は便宜上「リーマンの階段関数」と読んでいます。ただし,リーマン自身は と記述していました。
以上のように,リーマンの素数公式といっても,その書き方は文献によってまちまちで,なおかつ私のブログでも2つの記事で異なった書き方をしているために混乱を招いています。
ただ,構造としては,(メビウス関数がついている・ついていないの違いはあるにせよ)大きく3つの項により成り立っていることは変わりません。
すなわち,「パワーアップ後の記事」で用いている簡略化された素数公式は,以下の3つによって成り立っています。
「パワーアップ前の記事」で用いている式と「パワーアップ後の記事」で用いている式は,以下のように対応しています。
左側が「パワーアップ前の記事」で,右側は「パワーアップ後の記事」で用いている式です。パワーアップ前・後と言っているとややこしいので,以下この記号を用います。
さて,その上で質問1に回答しましょう。
「パワーアップ後の記事」のオレンジ色のグラフは,
を用いています。つまり,式 の「主要部」に対して,「振動項」の最初の 個だけを足しあわせた式です。すなわち,「ゼータ関数の非自明な零点」を最初の 個だけ使って作った式です。リーマンの素数公式は,本来は無限に多くの零点の寄与を足していくものですが,最初の 個だけを用いているのです。 を十分大きくとれば,リーマンの素数階段 に近づいていきます。
では,ご質問のあった先の URL
http://empslocal.ex.ac.uk/people/staff/mrwatkin/zeta/encoding1.htm
における とは何かというと,以下の式で表せる関数と考えられます。
つまり,式 の「振動項」において最初の 個だけを足しあわせた式です。すなわち,「ゼータ関数の非自明な零点」を最初の 個だけ使って作った式です。これも同様に, を十分大きくとれば,素数階段 に近づいていきます。
したがって,両者ではそもそも用いているリーマンの素数公式が異なるわけです。
- 私が作ったパワーアップ後のアプリケーションは,式 を
- ご質問のURLの先の動いているグラフ(と私のパワーアップ前の式)は式 を
用いています。
ただし,どちらも「ゼータ関数の非自明な零点」に関する項の「用いる零点の個数 」を増やして,近似を近づけている点は変わりません。また,どちらの式においても の意味するものは同じです。その意味で,(メビウス関数等の細かい違いを除けば)本質的に同じものを扱っていると考えてよいでしょう。