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tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

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「双曲空間が分かった!」と感動しました

tsujimotter.hatenablog.com

で紹介した「基本領域ゲーム」をきっかけとして、taketo1024 さん と matsumoring さんと私による「双曲空間」に関する議論が始まりました。結果として、tsujimotterの中でずいぶんと深い理解に到達した気がして、感動しましたので、その気持ちを残しておきたく記事をしたためます。

そのタイムラインを様子をまとめたのがこちら。

SL(2,Z) と双曲空間についての議論まとめ - Togetterまとめ


議論の目的は以下の2つの疑問を解決することでした。

  • 上半平面  H をケーリー変換によって単位円板に射影した領域を何と呼ぶのか?
  • 射影した先の領域に作用する  {\rm SL}(2,\mathbb{Z}) に対応する一次分数変換は、 {\rm SL}(2,\mathbb{Z}) そのものではないはずだが、これはどんな群か?


1つめの疑問に対する答えは「ポアンカレ円板」ということでした。

ポアンカレの円板モデル - Wikipedia
ポアンカレ計量 - Wikipedia


2つめは以下で求めていきましょう。最終的にはこんな行列の群となります。

 \displaystyle  C\varGamma C^{-1} = \left\{ \begin{pmatrix} p^* & q^* \\ q & p \end{pmatrix} \middle| \; p, q \in \frac{1}{2}\mathbb{Z}[i], pp^{*} - qq^{*} = 1 \right\}


togetterまとめの後半では、この群を具体的に求める作業をしていました。実を言うと、最初に matsumoring さんがツイートしていた内容が答えだったのですが。taketo1024 さんと私が、そのことに気づかずに右往左往しつつも答えに近づいていく様子が見えます。笑

 \varGamma = {\rm SL}(2, \mathbb{Z}) = \left\{ \begin{pmatrix} a & b\\c & d \end{pmatrix} \middle| \; a, b, c, d \in \mathbb{Z}, \; ad - bc = 1 \right\}

の元  \gamma が、ポアンカレ円板上でどのように対応するかを考えてみましょう。

ケーリー変換  C を以下のように定めます。

 C = \begin{pmatrix} 1 & -i \\ 1 & i \end{pmatrix}


ポアンカレ円板上の変換  \gamma^* は、いったんケーリー変換の逆  C^{-1} をかけて上半平面に戻してから  \gamma をかけて、さらにケーリー変換  C によって円板に再度戻してあげればよいことがわかります。

よって、

 \gamma^{*} = C\gamma C^{-1}

が求める変換となります。(変換行列は右から順に計算することに注意)

この変換行列を具体的に求めてみるとこうなります。

 \gamma^{*} = C\gamma C^{-1} = \begin{pmatrix} \frac{(a+d)+(b-c)i}{2} & \frac{(a-d)-(b+c)i}{2} \\ \frac{(a-d)+(b+c)i}{2} & \frac{(a+d)-(b-c)i}{2} \end{pmatrix}

ここで、

 \displaystyle p = \frac{(a+d)-(b-c)i}{2}
 \displaystyle q = \frac{(a-d)+(b+c)i}{2}

のように置くと、

 \gamma^{*} = \begin{pmatrix} p^* & q^* \\ q & p \end{pmatrix}

が得られます。 p^*, q^* はそれぞれ  p, q の複素共役です。


 p, q は複雑な形をしていますが、 a, b, c, d \in \mathbb{Z} をとることを考えると、結局ガウス整数に  \displaystyle \frac{1}{2} をかけたものに一致することが分かるでしょう。

つまり、

 \displaystyle p, q \in \frac{1}{2}\mathbb{Z}[i] = \left\{ \frac{a}{2} + \frac{b}{2}i \middle| \; a, b \in \mathbb{Z} \right\}


もう少し、この行列  \gamma^* の性質を理解するために行列式を考えましょう。

  {\rm det}\; \gamma^* = \begin{vmatrix} p^* & q^* \\ q & p \end{vmatrix} = pp^* - qq^* = \left|p\right|^2 - \left|q\right|^2


 \displaystyle \left|p\right|^2 = pp^{*} = \frac{(a+d)-(b-c)i}{2} \cdot \frac{(a+d)+(b-c)i}{2} \\
\displaystyle =\frac{a^2+b^2+c^2+d^2 + 2(ad-bc)}{4} \\
\displaystyle =\frac{a^2+b^2+c^2+d^2 + 2}{4}

最後の等式は、 ad - bc = 1 を使った。


同様に、

 \displaystyle \left|q\right|^2 = qq^{*} = \frac{(a-d)+(b+c)i}{2} \cdot \frac{(a-d)-(b+c)i}{2} \\
\displaystyle =\frac{a^2+b^2+c^2+d^2 - 2(ad-bc)}{4} \\
\displaystyle =\frac{a^2+b^2+c^2+d^2 - 2}{4}


よって、これらを代入すると、

  {\rm det}\; \gamma^* = 1

が得られた。


結局、ポアンカレ円板の上で作用し  \varGamma = {\rm SL}(2, \mathbb{Z}) に対応する群は、以下のように表せることが分かりました。

 \displaystyle  C\varGamma C^{-1} = \left\{ \begin{pmatrix} p^* & q^* \\ q & p \end{pmatrix} \middle| \; p, q \in \frac{1}{2}\mathbb{Z}[i], pp^{*} - qq^{*} = 1 \right\}


この群は明らかに、  {\rm SL}(2, \mathbb{C}) の部分群となっています。念のため定義を書くと、

 {\rm SL}(2, \mathbb{C}) = \left\{ \begin{pmatrix} a & b\\c & d \end{pmatrix} \middle| \; a, b, c, d \in \mathbb{C}, \; ad - bc = 1 \right\}

 C\varGamma C^{-1} に具体的な名前はついてなさそうなのが残念です。ともあれ、ポアンカレ円盤上の一次変換行列が求まりました。


議論の中で、個人的に特に面白く、感銘を受けたのは taketo1024 さんが「双曲空間」について説明した喩え話です。


なるほどと思いました!
「上半平面上の基本領域」って、前の記事で書いた通りなんとも変な形をしていて、気持ちが悪かったのですよね。下の部分がちょっとだけ円でくりぬかれていたりして。

でも本当は、単に上半平面上に埋め込まれたせいで、歪んで見えていただけなんですね。ポアンカレ円板に押し込んだときも同様に異なる形で歪んで見える。

結局基本領域は、双曲空間上の直線、すなわち測地線で囲まれた領域なんですね。だけど、双曲空間にいないとそれを「見る」ことができないのだと。

すごい納得感がありました。


話は変わりますが、昔BBCが作った「フェルマーの最終定理」についての番組を見たのですが、そこで  {\rm SL}(2, \mathbb{Z}) に対する保型形式(動画では「モジュラー形式」と説明)の説明があったのですね。非常に印象的なフレーズだったので覚えていたのです。

この動画は、ニコニコ動画でも上がっていますのでぜひ見てほしい。


11分00秒ほどのシーンで、こんな風に解説されています。

メイザー「モジュラー形式とは、複素平面における関数で、極端なほどの対称性を持っています。内部には対称的な構造が無数にあるので、存在すること自体偶然のように見えますが、たしかに存在するのです。」
ナレーション「この映像は、モジュラー形式の影に過ぎません。双曲空間と呼ばれる空間に入らないと、その本当の姿を見ることは出来ないのです。」

初めて番組を見たときは、まったく意味がちんぷんかんぷんでした。

しかしながら、先ほどの議論をふまえて考えると、まさにさっきいっていたことなのです!

f:id:tsujimotter:20150412042015p:plain:w400

この図は、番組の中で使われていたモジュラー形式の影の映像ですが、これがまさにさっき話していた基本領域がずらーっと並んだ構造をしていますね!射影の仕方によって、本来奇麗なタイルなはずの基本領域の格子が、いろんな方向に歪んで見えますが、それは双曲空間が単純に2次元で表現できないからでしょう!

いやー、この映像が理解できたのは、本当に感動しました!このことを話していたのか!というね。

「双曲空間が分かった!」いや「双曲空間が見えた!」気がしました。


分からないと思っていたことが、分かるようになったと思った瞬間って、とても幸せな気持ちになりますよね!これからも、この瞬間を味わえるように勉強を続けていきたいと思えます!