tsujimotterの下書きノート

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Z[√-5] のイデアルについて (2)

シリーズ1本目の記事はこちら:
tsujimotter-sub.hatenablog.com


イデアルとは,数をまとめた集合のことである。数をまとめた集合同士の計算をしなければならないので,単なる数の計算よりもややこしい。


イデアルは,以下のように定義される。

 \mathcal{O}_K における代数的整数  \alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n を考えて,以下のような集合を作る。

 (\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n) := \left\{ \alpha_1 \xi_1 + \alpha_2 \xi_2 + \cdots + \alpha_n \xi_n \mid \xi_1, \xi_2, \ldots \xi_n \in \mathcal{O}_K \right\}

これを, \alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n で生成される  \mathcal{O}_K のイデアル とよぶ。


特別な場合として, \alpha \in \mathcal{O}_K 1つによって生成されるイデアルも考えることが出来る。

 (\alpha) := \left\{ \alpha \xi \mid \xi \in \mathcal{O}_K \right\}

これを, \alpha で生成される  \mathcal{O}_K の単項イデアル とよぶ。

ちなみに,「 \mathcal{O}_K の」の部分は,文脈でわかる場合は省略されることが多い。今回も,整数環としては  \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] しか用いないため,たぶんずっと省略されるだろう。



いくつか例を挙げよう。単項イデアルの方が簡単であるから,そちらから例を挙げることにする。

 2 \in \mathcal{O}_K によって生成される単項イデアルは,次のように書ける。

 (2) = \left\{ 2 \xi \mid \xi \in \mathcal{O}_K \right\}

これは単純で「 2 の倍数」の集合である。とはいっても,通常の意味の「 2 の倍数」ではなくて「 2 \mathbb{O}_K の元をかけた数」という意味の倍数である。

たとえば,以下の数はすべて上の意味で「 2 の倍数」であるから,単項イデアル  (2) の元である。

 2\cdot 1, \;\; 2\cdot 3, \;\; 2\cdot (1+\sqrt{-5}) \in (2)

 \xi \in \mathcal{O}_K の部分を書き下してしまって,以下のように表現することもできるだろう。

 (2) = \left\{ 2a + 2b\sqrt{-5} \mid a, b \in \mathbb{Z} \right\}

この辺りは,みなさんの好みに任せたいと思う。


 6 \in \mathcal{O}_K によって生成される単項イデアルも同様に書くことが出来る。

 (6) = \left\{ 6 \xi \mid \xi \in \mathcal{O}_K \right\}

当然, 2, 6 のような通常の意味の整数(有理整数という)だけでなく, 1+\sqrt{-5} によって生成されるイデアルを考えることもできるだろう。

 (1 + \sqrt{-5}) = \left\{ (1 + \sqrt{-5}) \xi \mid \xi \in \mathcal{O}_K \right\}

こちらのケースでは,以下のように変形しておくとわかりやすいかもしれない。

 (1 + \sqrt{-5}) = \left\{ (a + b\sqrt{-5}) \mid a, b \in \mathbb{Z} \right\}


単項イデアルは,要するに「(ちょっと注意の必要な)倍数の集合」だと考えてもらえればいいと思う。



項が2つ以上の場合のイデアルについても例を挙げておこう。

 2,  1+\sqrt{-5} の2数によって生成されるイデアルを考えよう。このイデアルはあとで使うことになる。

 (2, 1+\sqrt{-5}) = \left\{ 2\xi_1 + (1+\sqrt{-5})\xi_2 \mid \xi_1, \xi_2 \in \mathcal{O}_K \right\}

 2,  1+\sqrt{-5} の2つが張る空間のようにみてもいいかもしれない。

これを  \xi_1 = a_1 + b_1\sqrt{-5}, \xi_2 = a_2 + b_2\sqrt{-5} のように置き換えると,

 (2, 1+\sqrt{-5}) = \left\{ 2(a_1 + b_1\sqrt{-5}) + (1+\sqrt{-5})(a_2 + b_2\sqrt{-5}) \mid a_1, a_2, b_1, b_2 \in \mathbb{Z} \right\}
 = \left\{ (2a_1 + a_2 - 5b_2) + (2b_1 + a_2 + b_2)\sqrt{-5} \mid a_1, a_2, b_1, b_2 \in \mathbb{Z} \right\}

というように表現することもできる。ややこしいが,

 (2a_1 + a_2 - 5b_2) + (2b_1 + a_2 + b_2)\sqrt{-5}

の形で表せる数は,すべてこのイデアルの元である。

当然であるが, 2 1+\sqrt{-5} (2,  1+\sqrt{-5}) の元である。これは定義から明らかであるし,また  a_1 = b_1 = 1, a_2 = b_2 = 0 とすれば, 2 が出てくるし,逆に  a_1 = b_1 = 0, a_2 = b_2 = 1 とすれば  1 + \sqrt{-5} が出てくる。

ほかにも適当に, a_1, b_1, a_2, b_2 に整数をいれれば数が出てくるので,自分で試してみてほしい。


計算のためにはここまで真剣に中身を考えることも無いように思うが,定義をただしく理解しておくのは良いことだと思う。


イデアルの包含関係

たとえば,こんなイデアルを考えよう。

 (4, 6) = \left\{ 4 \xi_1 + 6 \xi_2 \mid \xi_1, \xi_2 \in \mathcal{O}_K \right\}

 (4, 6) は,実のところもっと簡単なイデアルに変形できる。

ここで登場するのがユークリッドの互除法である。ユークリッドの互除法によると,有理整数  a, b における以下の一次不定方程式には,解  x_1, x_2, x \in \mathbb{Z} が存在する。

 a x_1 + b x_2  = \gcd(a, b) x

 (4, 6) 4 \xi_1 + 6 \xi_2 の部分を,また  \xi_1 = a_1 + b_1\sqrt{-5} \xi_2 = a_2 + b_2\sqrt{-5} に置き換える。

すると,

 4 (a_1 + b_1\sqrt{-5}) + 6 (a_2 + b_2\sqrt{-5}) = (4a_1 + 6a_2) + (4b_1 + 6b_2)\sqrt{-5}

と変形でき,

 4a_1 + 6a_2 = \gcd(4, 6) a
 4b_1 + 6b_2 = \gcd(4, 6) b

という2つの一次不定方程式を考えれば,ユークリッドの互除法により,

 4 \xi_1 + 6 \xi_2 = \gcd(4, 6) \xi

のように置き換えることが出来るのだ。ただし, \xi = a + b\sqrt{-5} である。

したがって, \gcd(4, 6) = 2 より,

 (4, 6) = \left\{ 2 \xi \mid \xi \in \mathcal{O}_K \right\}
 = (2)

となり,結局  (4, 6) は単項イデアルになってしまった。


 \gcd(a, b) = 1 となる場合は,もっと簡単になる。

 (2, 3) = \left\{ 2 \xi_1 + 3 \xi_2 \mid \xi_1, \xi_2 \in \mathcal{O}_K \right\}
 = \left\{ 1 \xi \mid \xi \in \mathcal{O}_K \right\}
 = (1)

言い忘れていたが, (1) は整数環  \mathcal{O}_K そのものである。これは定義から明らかであろう。


この方法は3つ以上の元によって生成されるイデアルに対しては,なおのこと有効である。

 (2, 3, \alpha) を考える。ただし, \alpha \in \mathcal{O}_K であるが, \alpha 2, 3 のいずれかと共通の約数を持とうが持つまいが何ら関係ない。

 (2, 3, \alpha) = \left\{ 2 \xi_1 + 3 \xi_2 + \alpha \xi_3 \mid \xi_1, \xi_2, \xi_3 \in \mathcal{O}_K \right\}
 = \left\{ 1 \xi + \alpha \xi_3 \mid \xi, \xi_3 \in \mathcal{O}_K \right\}
 = (1)

なんと, \alpha の効果が消えてしまった。 1 \xi が現れた時点で,すでに  \mathcal{O}_K のすべての元を回ることが出来るので, \alpha があろうがなかろうがイデアルの形には影響を及ぼさないのである。


今回紹介した方法は,後に「イデアルの掛け算」をする際に非常に有効となる。


次回に続く。


次回の記事(最終話)はこちら:
tsujimotter-sub.hatenablog.com