読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

記事一覧はこちらです。このブログの趣旨はこちら

メインブログである「tsujimotterのノートブログ」はこちら

Z[√-5] のイデアルについて (3)

シリーズ1本目の記事はこちら:
tsujimotter-sub.hatenablog.com

シリーズ2本目(前回)の記事はこちら:
tsujimotter-sub.hatenablog.com



今回がシリーズ最終話。これまでの準備のおかげで,ようやくイデアル同士の計算の話ができる。


登場する計算は2つ。「掛け算」と「ノルム」である。

イデアルの掛け算

単項イデアル同士の掛け算を考えるが,これは至ってシンプルである。 (2), (3) の掛け算は以下のように計算される。

 (2) (3) = (6)

一般に,単項イデアル同士の掛け算は,単項イデアルを生成する元同士を掛け算して,その積の単項イデアルを作ればいいのだ。つまりこういうことだ。

 (\alpha) (\beta) = (\alpha\beta) \hspace{20px} (\alpha, \beta \in \mathcal{O}_K)

簡単であろう。

逆にいうと, (6) (2) で割り切れる,あるいは  (2) (6) を割り切る,のように言うことが出来る。これによって,約数の概念が現れる。約数というか,約イデアルか。そんな言葉はないが。


この勢いで,複数の数によって生成されるイデアル同士の掛け算を定義したいところだが,その前に単項イデアルとそうでないイデアル同士の掛け算を考えよう。

たとえば,

 (2) (3, 1+ \sqrt{-5}, 3+\sqrt{-5}) = (6, 2(1+\sqrt{-5}), 2(3+\sqrt{-5}))

のような場合では,単にすべての生成元の組み合わせを計算していけばよいことが分かる。逆に,右辺のような形のイデアルを見かけたら, (2) で割り切れると考えたらよい。



さて,いよいよ複数元で生成されたイデアル同士の掛け算について考えよう。以下では,2つの生成元同士で考えているが,3つ以上になっても全く同じである。

 (\alpha_1, \beta_1) (\alpha_2, \beta_2) = (\alpha_1 \beta_1, \alpha_1 \beta_2, \alpha_2 \beta_1, \alpha_2 \beta_2) \hspace{20px} (\alpha_1, \beta_1, \alpha_2, \beta_2 \in \mathcal{O}_K)

要するに,すべての生成元同士の組に対してそれぞれ掛け算を行って,結果をすべて生成元としたイデアルを作るのである。

このままだと,元の数が増えて行って大変だと思うかもしれないが,そこは先ほど述べたユークリッドの互除法を使って,等価なイデアルに置き換えていけばよい。


例を計算してみよう。

 (2, 1+\sqrt{-5})(3, 1+\sqrt{-5}) = (6, 3(1+\sqrt{-5}), 2(1+\sqrt{-5}), (1+\sqrt{-5})^2 )

ここで,冒頭の例で使った  6 = (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}) が活かせる。代入すると,

  = ( (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}), 3(1+\sqrt{-5}), 2(1+\sqrt{-5}), (1+\sqrt{-5})^2 )

これらは共通の約数  1 + \sqrt{-5} を持つから,括りだすことが出来て,

  = (1+\sqrt{-5}) (1-\sqrt{-5}, 3, 2, 1+\sqrt{-5} )

最後に, (2, 3) = (1) を応用すると,

  = (1+\sqrt{-5}) (1) = (1+\sqrt{-5})

となって,

 (2, 1+\sqrt{-5})(3, 1+\sqrt{-5}) = (1+\sqrt{-5})

が示された。


素イデアル

上の例は, (1+\sqrt{-5}) というイデアルに対して,因数分解することが出来たと見ることもできる。

ここで気になってくるのは,分解された2つのイデアル  (2, 1+\sqrt{-5}), \; (3, 1+\sqrt{-5}) はこれ以上分解できないのか,という問題だ。

つまり,以上2つのイデアルは素イデアルかどうか,ということである。

素イデアルを考える上では,本シリーズ1回目に代数的数のノルムを考えたように,イデアルのノルムという概念を考えると便利である。

イデアルのノルムに対しては,以下のような便利な定理があるのだ。

ノルムが有理素数であるイデアルは,素イデアルである

これは非常に簡便な判別法があると思う。


では,イデアルのノルムを定義しよう。

 \alpha, \beta, \gamma, \ldots によって生成されたイデアルを  A = (\alpha, \beta, \gamma, \ldots) としたとき, A に共役なイデアルを  A' = (\alpha', \beta', \gamma', \ldots) とする。ここで, \alpha' \alpha の共役な元であるが,定義は以下の通りである。

 \alpha = a + b\sqrt{-5} としたとき, \alpha の共役な元を  \alpha' と書き, \alpha' = a - b\sqrt{-5} で定義する。

イデアル  A に対する共役なイデアルを  A' としたとき,その積  AA' はある有理整数  n\geq 0 を用いて  AA' = (n) と表せる。この  n Aノルムといい, N(A) = n と表す。


実際に計算してみよう。

 P = (2, 1 + \sqrt{-5}) とすると,共役なイデアルは  P' = (2, 1 - \sqrt{-5}) である。この積を計算すると,

 PP' = (2, 1+\sqrt{-5})(2, 1-\sqrt{-5})
 = (4, 2(1+\sqrt{-5}), 2(1-\sqrt{-5}), (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}))
 = (4, 2(1+\sqrt{-5}), 2(1-\sqrt{-5}), 6)
 = (2)(2, 1+\sqrt{-5}, 1-\sqrt{-5}, 3)
 = (2)(1)
 = (2)

となる。したがって,イデアル  P のノルムは  N(P) = 2 である。 2 は有理素数であるから,定理より  P は素イデアルであることが分かった。


同様に, Q = (3, 1 + \sqrt{-5}) として計算してみよう。共役なイデアルは  Q' = (3, 1 - \sqrt{-5}) である。この積を計算すると,

 QQ' = (3, 1+\sqrt{-5})(3, 1-\sqrt{-5})
 = (9, 3(1+\sqrt{-5}), 3(1-\sqrt{-5}), (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}))
 = (9, (1+\sqrt{-5}), 3(1-\sqrt{-5}), 6)
 = (3)(3, 1+\sqrt{-5}, 1-\sqrt{-5}, 2)
 = (3)(1)
 = (3)

となり,イデアル  Q のノルムは  N(Q) = 3 である。 3 も有理素数であるから,定理より  Q は素イデアルである。


したがって, P Q も素イデアルだから,

 (1+\sqrt{-5}) = (2, 1+\sqrt{-5})(3, 1+\sqrt{-5}) = PQ

は素イデアル分解であることが確認できた。

結論

さぁ,実は結論に向けてあと一歩まで準備が進んでいたことに,気づいていただろうか。

もう一度話をおさらいしておこう。元々の問題は, \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] 上で素因数分解すると,その一意性が保たれない場合があるということだ。

その具体例として, 6 という数は, \mathcal{O}_K において,以下のように2通りに素因数分解されてしまうのだった。

 6 = 2\cdot 3 = (1-\sqrt{-5})(1+\sqrt{-5})

ここでデデキントらは,イデアルを使ってなんとか素因数分解の一意性を取り戻そうとした。正確には,数ではなくイデアルを素イデアルの積に分解する「素イデアル分解」である。

数である  6 を用いるのではなく, 6 によって生成される単項イデアル  (6) を考える。このイデアルの素イデアル分解を考えるのだ。

これまで,計算例として出してきた2つの素イデアル,すなわち  P = (2, 1 + \sqrt{-5}) Q = (3, 1 + \sqrt{-5}) は,実をいうと  (6) の素イデアル分解の候補である。

いくつかの計算の中で,以下の3つの式が成り立つことを見てきた。

 P P' = (2)
 Q Q' = (3)
 P Q = (1+\sqrt{-5})

この議論を締めるためには,あと1つ式が必要だ。

 P' Q' = (1-\sqrt{-5})

といっても,この式は上の3つめの式の共役になっている。単に両辺共役をとれば,等式が成り立つことは自明であろう。

したがって,ここに4つの関係式が生まれた。

以降が本シリーズの結論である。これら4つの関係式を用いると,単項イデアル  (6) は次の式のように  P, P', Q, Q' の4つに素イデアル分解できて,その分解は一意に定まる。

 (6) = (2) (3) = (1-\sqrt{-5})(1+\sqrt{-5}) = P \cdot P' \cdot Q \cdot Q'

右辺の, P, P', Q, Q' の順序は入れ替え可能であるから,積の順番を変えれば   (2) (3)  (1-\sqrt{-5})(1+\sqrt{-5}) を作れることが確認できよう。

結局のところ, (2), (3), (1-\sqrt{-5}), (1+\sqrt{-5}) は素イデアルではなかった。

シリーズ1回目の言葉をもう一度使うと, 2, 3, 1-\sqrt{-5}, 1+\sqrt{-5} は,数の世界では素数に見えたが,イデアルの世界へ旅するとまだまだ分解できる先があったのである。そして,その旅はイデアルの世界が終点である。


おまけ:単項イデアル整域 (PID)

ところで,「イデアルの包含関係」の項を見ていて「すべてのイデアルが単項イデアルになってしまわないか」と疑問に思った方もいるかもしれない。

そんな人のために少し補足しておこう。

二次体によっては,「すべてのイデアルが単項イデアルになるケース」もあって,そのような二次体の整数環のことを「単項イデアル整域」と言ったりする。英語だと "Principal Ideal Domain" で,略して PID ということが多い。

結論から言うと, \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] は PID ではない。PIDでなければ,単項イデアルにならないイデアルが存在するはずである。その例は,もう既に登場していて,  (2, 1+\sqrt{-5}) がそうである。このイデアルは,単項イデアルにならない。


証明は以下のとおりである。

(証)
 P = (2, 1+\sqrt{-5}) とすると,先ほどの計算の通り  P P' = (2) である。
また,もし  P が単項イデアルであれば,有理整数  a, b を用いて  (a + b\sqrt{-5}) と表せるはずである。 P' も同様に  P' = (a - b\sqrt{-5}) と表せる。積をとると, PP' = (a^2 + 5b^2) となる。

したがって,

 (a^2 + 5b^2) = (2)

となるはずである。ここで, \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] の単元は  \pm 1 であるから,

 a^2 + 5b^2 = \pm 2

を満たす, a, b \in \mathbb{Z} が存在しなければならないが,そのような  a, b は存在しない。したがって, P が単項イデアルという仮定が誤り。

(証明終わり)

参考文献

シリーズ通して参考にしたのはこちらの本。大変分かりやすいにも関わらず,最初から最後まできちんと書いていて,ほかの本を頼る必要はあまりありません。とはいえ,今回の  \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] に関する問題は,ところどころ例としては登場するもの,つながりというか一貫した解説はなかったので,今回自分なりにまとめてみることにしたのでした。おかげで,大変見通しがよくなりました。

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

  • 作者: 青木昇,飯高茂,中村滋,岡部恒治,桑田孝泰
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本
  • 購入: 2人 クリック: 2回
  • この商品を含むブログを見る