tsujimotterの下書きノート

このブログは「tsujimotterのノートブック」の下書きです。数学の勉強過程や日々思ったことなどをゆるーくメモしていきます。下書きなので適当です。

記事一覧はこちらです。このブログの趣旨はこちら

メインブログである「tsujimotterのノートブログ」はこちら

多項式の根の対称式

Twitter上でこんな問題があったので、メモがてらまとめてみます。



2次多項式の根と係数

2次多項式   ax^2 + bx + c の2根(重根でも可)を  \alpha, \beta としたときに、

 (\alpha  + 1)(\beta + 1)

を求めよ、という問題ですね。 \alpha, \beta を入れ替えても対称な、対称式になっています。したがって、対称式の基本定理より、係数の四則演算で表せると言うのが背景にあるわけですね。

実際、展開すると  \alpha, \beta の基本対称式が得られるので、解と係数の関係により係数に置き換えていってもいいわけですが、もう少し賢い方法はないか?という話のようです。


ここでポイントになるのは、多項式が

 ax^2 + bx + c = a(x - \alpha)(x - \beta)

のように展開できるということですね。これは解と係数の関係を導くために使う式ですが、これをこのまま使います。

両辺に  x = -1 を代入すると

 a(-1)^2 + b(-1) + c = a(-1 - \alpha)(-1 - \beta)

となりますが、右辺は  (-1) をくくり出すと

 a(-1 - \alpha)(-1 - \beta) = a(\alpha + 1)(\beta + 1)

になります。したがって

 \displaystyle (\alpha + 1)(\beta + 1) = \frac{a - b + c}{a}

となる、というのが今回の結論です。

右辺の分子が係数の交代和(プラスマイナスを交互にかけて足し合わせる)となっているのがポイントですね。

n次多項式への一般化

ふと思ったのですが、この話はそのまま  n 次多項式にも適用できそうですね。

実際、 f(x) =  a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_2 x^2 + a_1 x + a_0 とおいて、その(重複含む) n 根を  \alpha_1, \ldots, \alpha_n とおきます。複素数の範囲まで広げれば、代数学の基本定理より重複度込みで  n 個の根を持ちますので、この仮定は十分一般的です。

このとき

 a_n(x - \alpha_1)\cdots (x - \alpha_n) = f(x)

とおいて、 x = -1 とすれば

 (-1)^n a_n(\alpha_1 + 1)\cdots (\alpha_n + 1) = f(-1)

となりますので

 \displaystyle (\alpha_1 + 1)\cdots (\alpha_n + 1) = \frac{(-1)^n f(-1)}{a_n}

が導けました。

ここで  n が偶数であれば

 (-1)^n f(-1) = a_n - a_{n-1} + \cdots + a_2 - a_1 + a_0

となるし、 n が奇数であれば

 (-1)^n f(-1) = -a_n + a_{n-1} - \cdots + a_2 - a_1 + a_0

となります。いずれにしても係数の交代和になりますね。

円分体の分岐

似たような話で、円分体の整数環  \mathbb{Z}[\zeta_p] で有理素数  p が分岐すると言う話があります。
tsujimotter.hatenablog.com

多項式  x^p - 1 を有理係数の範囲で分解すると

 x^p - 1 = (x - 1)(x^{p-1} + \cdots + x + 1)

とできますが、この  x^{p-1} + \cdots + x + 1 p 次円分多項式といい、その根の1つを  \zeta_p と表します。

ところで、 x^p - 1 の根は  1 p 乗根なので、 1, \zeta_p, \zeta_p^2, \ldots, \zeta_p^{p-1} を根に持ちます。したがって

 x^p - 1 = (x - 1)(x - \zeta_p) \cdots (x - \zeta_p^{p-1})

と分解されますね。すなわち、両辺  x-1 で割ると円分多項式が

 x^{p-1} + \cdots + x + 1 = (x - \zeta_p) \cdots (x - \zeta_p^{p-1})

と分解されたことになります。

ここで先ほどと同じように、今度は  x = 1 を代入すると

 p = (1 - \zeta_p) \cdots (1 - \zeta_p^{p-1})

となります。これは、 p \mathbb{Z}[\zeta_p] において、 p-1 個の整数の積に分解されたことを意味しますね。

イデアルで表すと

 (p) = (1 - \zeta_p) \cdots (1 - \zeta_p^{p-1})

ということになります。また、 \frac{1-\zeta_p^r}{1-\zeta_p^s}(ただし、 r, s p と互いに素)が  \mathbb{Z}[\zeta_p] の単数であることから、 \mathbb{Z}[\zeta_p] のイデアルとして

 (1-\zeta_p^k) = (1-\zeta_p)

が成り立つことになります。したがって

 (p) = (1 - \zeta_p)^{p-1}

なるイデアルの等式が成り立ちます。なお、 [\mathbb{Q}(\zeta_p) : \mathbb{Q}] = p-1 なので、 n = efg の公式によって、上の式は  (p) \mathbb{Z}[\zeta_p] において完全分岐することを意味します。特に  (1-\zeta_p) は素イデアルとわかります。


だいぶ話は込み入ってきましたが、最初に述べたような問題は一見高校数学の計算問題のようですが、たとえばこんな風な応用もあるんですよ、という紹介でした。