tsujimotterの下書きノート

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ディリクレの単数定理とペル方程式

前の記事で「単数って面倒だよね」という話をした。

そのときは, \mathbb{Z}[\omega ] のような虚2次体の整数環を考えていたわけだ。 これで面倒だと騒いでいたわけだが,虚2次体の整数環における単数は「所詮」有限個しか存在しない。

実は,実2次体の場合は,単数は無数に存在する。これが「ディリクレの単数定理」だ。


具体的に, \mathbb{Z}[\sqrt{2}] を考えよう。

この環における,単数の1つがこれだ。

 \varepsilon = 1+\sqrt{2}


そして,この単数をべき乗した,以下の数もすべて単数である。

 \varepsilon^n

ちなみに,以下もすべて単数である。

 -\varepsilon^n

念のため言っておくと, n は負を含む整数である。


まだあるのかと思うかもしれないが,これで全部だ。ディリクレにより, \mathbb{Z}[\sqrt{2}] の単数は以上であることが示されている。

たしかに,無数に存在することが分かった。

いかにも,めんどくさそうな話である。


とはいえ,悪い話ばかりではない。

単数の面白い応用例として,ペル方程式の話をしよう。

ペル方程式とは, D を平方数でない自然数としたとき,

 x^2 - Dy^2 = \pm 1

を満たすような整数  x, y を求めよ,という問題である。


この問題は,単数を使ってあっけなく解決する。

今日は  D = 2 のときを考えよう。

まず,

 \varepsilon = 1+\sqrt{2}

 \mathbb{Z}[\sqrt{2}] における単数である。また,

 -\varepsilon^{-1} = -\frac{1}{1+\sqrt{2}} = 1-\sqrt{2}

も同じ世界における単数である。

さて,これらの積を取ると,

 \varepsilon \times (-\varepsilon^{-1}) = (1+\sqrt{2}) (1-\sqrt{2}) = 1^2 - 2\times 1^2 = -1

となって,これはペル方程式を満たす。

また,(-1) をかけて

 \varepsilon \times \varepsilon^{-1} = (1+\sqrt{2}) (-1+\sqrt{2}) = 1^2 - 2\times 1^2 = 1

としてもいい。これもペル方程式を満たす。


面白いのはここからで,

 \varepsilon^2 \times \varepsilon^{-2}
 \varepsilon^2 \times (-\varepsilon^{-2})

としてもペル方程式を満たすし,もっというと任意の整数に対して

 \varepsilon^n \times \varepsilon^{-n}
 \varepsilon^n \times (-\varepsilon^{-n})

はペル方程式を満たすのである。

さらにいえば,ペル方程式の解はこの方法ですべて列挙できる。


面白いだろう!

厄介だと思っていた単数が,こんなにも役に立つなんて。
何事も使い方次第なのですね。

参考文献

フェルマーの大定理が解けた!―オイラーからワイルズの証明まで (ブルーバックス)

フェルマーの大定理が解けた!―オイラーからワイルズの証明まで (ブルーバックス)