tsujimotterの下書きノート

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j-函数に関するあれこれメモ

山本先生の「数論入門2(岩波講座現代数学への入門)」に、僕が知りたかった「楕円モジュラー関数」と「虚二次体」の話が、この上なくわかりやすく書いてあったので、ここにご報告します。

岩波講座 現代数学への入門〈5〉(9-10)数論入門1・2

岩波講座 現代数学への入門〈5〉(9-10)数論入門1・2

類数1の虚二次体におけるj函数の値は整数

「ラマヌジャン定数がほとんど整数である」に関する「虚二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-d}) の類数が1なら  j(\tau) は整数( \tau = \frac{1+\sqrt{-d}}{2})」の話について。

端折って説明すると:

  • 判別式  -d が等しく,対等な二つの2次無理数  \alpha, \beta はj関数値  j(\alpha), j(\beta) が等しい
  • 任意の二次無理数  \alpha は,判別式が等しい対等な二次無理数  \tilde{\alpha} が基本領域上に存在する。
  • 対等  \alpha \sim \beta という同値関係で,判別式  -d の2次の無理数の集合  A(-d) を割ると  A(-d)/{\sim} となるが,このすべての類は基本領域上の数によって代表される。
  • 判別式  -d の無理数の類のj関数値  j(\alpha_1), \; j(\alpha_2), \; \cdots, \; j(\alpha_{h}) を根に持つ類多項式  P_{-d}(X) = \left(X -  j(\alpha_1) \right) \left(X -  j(\alpha_2) \right) \cdots \left(X -  j(\alpha_h) \right) は整係数多項式となる。次数  h は判別式  -d の類数と同じ
  • もし類数1ならj関数値  j\left( \alpha \right) は整数
    • 2次無理数は一般に  j\left( \alpha \right) は「代数的整数  \mathbb{A}」かつ類数1なら  j\left( \alpha \right) \in \mathbb{Q} より  \mathbb{A} \cap  \mathbb{Q} =  \mathbb{Z} と考えても良い
  • 基本領域上の先ほどの無理数の類の中には必ず1つ  \alpha =\frac{1+\sqrt{-d}}{2} 型の無理数が存在するので、 j\left( \frac{1+\sqrt{-d}}{2} \right) は整数になるというわけですね。あーすっきりした。
  • 疑問: 類多項式ってなんで整係数多項式になるのだろう。つまり虚二次体の整数環に対するj関数の値はなぜ代数的整数なのか。

 K=\mathbb{Q}(\sqrt{-23}) のヒルベルト類体

前から疑問だった  K=\mathbb{Q}(\sqrt{-23}) のヒルベルト類体  H/K が、なぜ

 f(X)=X^3-X+1

の分解体になるのかもよくわかった。

 K のヒルベルト類体  H/K H = K\left( j \left(\frac{1+\sqrt{-d}}{2}\right) \right) で生成される。 j\left(\frac{1+\sqrt{-d}}{2}\right) の類多項式  P_{-23}(X) は以下のようになる:

 P_{-23}(X) = X^3 + 3491750X^2 - 5151296875X + 12771880859375

あれ  f(X) は?

一方で, f(X) の根  \alpha, \beta, \gamma \mathbb{Q} に添加すると6次拡大  H'/\mathbb{Q} ができる。

 f(X) の判別式

 D = (\alpha - \beta)^2(\beta - \gamma)^2(\gamma - \alpha)^2 = -23

より,

 (\alpha - \beta)(\beta - \gamma)(\gamma - \alpha) = \pm \sqrt{-23}

が得られるから, H'/\mathbb{Q} K/\mathbb{Q} を含む拡大である。

少し考えると, H'/K K の不分岐アーベル拡大であることがわかる。 H'/K 6/2 = 3 次拡大(すなわち,類数と一緒)より, H' は最大不分岐アーベル拡大(すなわち,ヒルベルト類体)である。ヒルベルト類体の一意性より  H = H' がわかる。

類多項式と類体論

類多項式って円分多項式にどこか似ているなぁと思った。

  • 円分多項式は「指数関数の特殊値の共役な組」を根に持つ整係数多項式で、類多項式は「楕円モジュラー関数の特殊値の共役な組」を根に持つ整係数多項式。
  • 類体論的には、どちらも大事なアーベル拡大を生成する。

ラマヌジャン定数との関連

 j(\tau) \in M_{12} \big/ S_{12} の形していて, S_{12} はカスプ形式なので, q展開の定数項が0,つまり,少なくとも1位以上の極を持つ.

 e^{\pi \sqrt{-d}} j(\tau) q 展開,

 j(\tau) = q^{-1} + 744 + 196884q + O(q^3)

 \tau = \frac{1+\sqrt{-d}}{2} を代入すると得られる。 e^{\pi \sqrt{-d}} q^{-1} に対応しているので,この係数が  1 になるように正規化すると,自然と 744 がでてくる。これが 744 の秘密。