tsujimotterの下書きノート

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片側極限と極限

複素関数  f(x) の微分可能性(正則性)の定義は

 \displaystyle \lim_{z_0 \to 0} \frac{f(z + z_0) - f(z)}{z_0}

なる極限が存在することである。ここで、極限が存在するというのは、 z_0 を任意のやり方で  0 へ近づける方法を考えて、どのやり方であっても同じ値に収束することをいうわけです。

だから、単に一直線に近づくだけでなく、実軸方向から移動させて虚軸方向に移動させたり、はたまた虚軸方向を移動させてから実軸方向に移動したり。もちろん、そんな単純な方法だけでなくて、ぐるぐる  z_0 = 0 のまわりを回りながら近づけていっても良いわけですね。


その点、実関数  f(x) の微分可能性の定義は、実軸は1次元でしかなく、右側から近づくか、左側から近づくかの2択しかないので、簡単ですね。そんな風に理解していたのです。

ところが、それはまだまだ十分な理解ではなく、実関数であろうとも、たとえば正の方からスタートして  x_0 = 0 を通り越してさらに負の方向から正の方向へ無限回いったりきたりして近づいていく、そんな方法を考えたっていいわけです。そういう近づき方もすべて考えた上で極限という概念が定義されるわけですね。

そうやって考えると、実関数だろうが複素関数だろうがその難しさは変わらないわけです。


ところが、面白い定理があって、右側極限と左側極限が一致することが、極限が存在することの必要十分条件であるというのです。

極限を定義しましょう。 f(x) x \to a の極限で  \alpha に収束することは、任意の  \varepsilon > 0 に対して、 \delta > 0 が存在して

 0 < |x - a| < \delta \;\Longrightarrow \; |f(x) - \alpha| < \varepsilon

が成り立つことを言います。このとき、 \displaystyle \lim_{x \to a} f(x) = \alpha と表します。

また、右側極限・左側極限を定義します。任意の  \varepsilon > 0 に対して、 \delta > 0 が存在して

 a < x < a + \delta \;\Longrightarrow \; |f(x) - \alpha| < \varepsilon

が成り立つとき、 \displaystyle \lim_{x \to a+0} f(x) = \alpha と表します。これを左側で同様に定義したものが  \displaystyle \lim_{x \to a-0}  f(x) = \alpha となります。


さて、このように定義すると、先ほどの主張はこうなります:

 \displaystyle \lim_{x \to a} f(x) = \alpha  \;\; \Longleftrightarrow \;\; \lim_{x\to a-0} f(x) = \lim_{x\to a+0} f(x) = \alpha

これの証明をしてみましょう。

 \Longrightarrow は明らかに左側の条件の方が強いことをいっているのでよいでしょう。不思議なのは、 \Longleftarrow の方です。

 \Longleftarrow の証明)
右が成り立つということは、任意の  \epsilon > 0 に対して
 \delta_{+} > 0 が存在して、

 a < x < a + \delta_{+} \;\Longrightarrow \; |f(x) - \alpha| < \varepsilon

かつ、②  \delta_{-} > 0 が存在して、

 a-\delta_{-} < x < a \;\Longrightarrow \; |f(x) - \alpha| < \varepsilon

が成り立つということです。片側極限の定義において、 \varepsilon は任意にとっていいので、①②で共通の  \varepsilon をとっているのがポイントですね。

ここで、 \delta := \min \{\delta_{+}, \delta_{-}\} とすれば、

 0 < |x-a| < \delta  \;\Longrightarrow \; |f(x) - \alpha| < \varepsilon

が成り立ち、 \displaystyle \lim_{x \to a} f(x) = \alpha であることが示されました。

(証明終わり)